ロシア軍が包囲するマリウポリ 衛星写真からみる「陸の孤島」

ロシア軍の攻撃で破壊された街、ウクライナのチェルニヒウにJNNの取材団が入りました。一方、激戦地・マリウポリの様子を衛星写真から分析すると、ロシア軍に包囲され、「陸の孤島」と化している様子が分かりました。

■徹底的に攻撃された町「どうして私たちを絶滅させようとするのか」

徹底的にロシア軍から攻撃された街、北部のチェルニヒウにJNNの取材団が入りました。

増尾聡記者
「このあたりは両側に民家が並んでいるんですが、無傷の建物はまったくありません。ほとんどの建物が砲撃による被害を受けていて、跡形もないほどです。攻撃の激しさを物語っています」

4月上旬まで続いた戦闘で町は完全に破壊され住民は怒りに震えていました。

住民
「ロシア兵はここを破壊したけど今の街はどう?物価だって上がってる!私は10日間パンを食べていない!どうして私たちを絶滅させようとするの!」

■「父が・・・」13歳少年の涙

亡くなった市民は250人。父親を亡くした少年が話を聞かせてくれました。

13歳のボグダンさんは携帯電話を充電するため父親と地下から出たところ、空爆の被害に遭ったといいます。病院に運ばれ治療を受ける間、父親は別の病院にいると思っていたボグダンさん。しかしこの取材の直前、事実を知らされたといいます。

ボグダンさん
「お父さんは死にました。病院までもちませんでした」

記者
「今何を感じていますか?」

ボグダンさん
「もう何も・・・とても良いお父さんでした。僕はお父さんと散歩するのが好きでした。一緒にパソコンを組み立てることも好きで。(思い出が)たくさんあって今は全部言えません」

ボグダンさんの母親は憔悴しきった顔でこう話します。

「息子は泣き叫んでいました。その後落ち着きましたが・・・私はできるだけ気持ちを強く持とうとしてます。何とか生き続けないと」

この病院の地下には、一時、市民が200人以上避難し、廊下まで人が溢れていたといいます。電力は失われ、寒さに凍える地下での暮らし。壁には一面、絵が貼られていました。避難してきた子どもがここで描いたものだといいます。ウクライナの国旗の色で紙一杯に描かれたハートのマークや、カラフルな地球の絵。地球の横には「平和が訪れますように」の言葉が添えられていました。

■「ロシアが私たちを守るために来た」第二の都市ハルキウへの攻撃激化

ウクライナ第2の都市・ハルキウでは東部への侵攻を計画するロシア軍の攻撃が侵攻開始以来、最も激しくなっています。

4月12日には空港近くにある職業訓練校や住宅などが被害を受け2人が負傷しました。住民の口からは皮肉が飛び出します。

住民
「家は二重の窓ですが、枠組みごとで飛ばされた。ロシアが私たちを守るために来ました。プーチンに感謝する」

■ロシア軍が攻勢強めるマリウポリ ウクライナ軍は2か所に追いつめられる

ロシア側が化学兵器を使った可能性が指摘されている南東部のマリウポリでは、ロシア軍が街の完全制圧を目指して攻勢を強めています。ロシア軍の戦闘準備の映像を見ると、銃弾や弾薬は豊富にあるようです。

一方、ウクライナ軍は港湾地区と製鉄所の2か所に追い詰められていると見られています。

現地のジャーナリストはウクライナ兵のメッセージとして動画を投稿しています。

ウクライナの海兵隊員(投稿された動画)
「私たちは包囲されていて食料や弾薬などの補給がありません。私たちは最後まで戦います」

ロシア側は制圧した街の中心部にある劇場をメディアに公開しました。3月16日、数百人の市民が避難し、地面に「子どもたち」とロシア語で大きく書かれていたにも関わらず、ロシア軍が空爆を行った劇場です。ただ、ロシア側は攻撃を否定しています。

親ロシア派の兵士
「ここには逃げようとした市民の焼死体が横たわっているが、どうやら煙の中で逃げ道を見つけられず、窒息したようだ」

また、劇場に市民が集まっていたのはウクライナ側の作戦だったと主張しました。

親ロシア派の兵士
「ここで見られるのは人質戦術だ。周囲の家から避難しようとしていた人々がここに連れて来られ、彼らは離れることができなかった」

■2万人以上犠牲のマリウポリ 市民の“強制連行”も

マリウポリはロシア軍の侵攻前40万人以上が暮らし、港湾都市として栄えていました。民間人の犠牲について市長は。

「我々の推計では犠牲者は2万1000人に達している」

また市長はロシア軍が市民の遺体を処分し、虐殺の証拠を隠滅していると主張しました。

マリウポリ市長
「私たちは通りから死体が消えていることを知っているし、その証拠もある。私たちはそれを大量虐殺と呼び、戦争犯罪と呼ぶ」

さらにマリウポリ市当局は大勢の市民がロシアに強制連行されていると訴えています。

市民に配られたというチラシには「ロシアの極東はあなた方を待っています」と書かれ、シベリアやサハリンなどの極東地域への移住に応じた場合、60万ルーブル(日本円で約90万円)を支給し、1ヘクタールの土地を無償提供すると書かれています。

■“陸の孤島”データからわかるウクライナ軍絶体絶命の状況

マリウポリの被害状況を分析している専門家がいます。東京大学大学院の渡邉英徳教授の研究チームです。

マリウポリの航空写真。衛星画像の分析をもとに、過去1か月間に人工衛星が熱を感知した場所が赤く浮かび上がっています。渡邉教授は戦闘による被害だと推測しています。空爆を受けた劇場の周りも赤くなっていました。

渡邉教授
「ここがすごく話題になった劇場の場所で、ここが被害にあったことは報道でもよく知られているんですけど、見てみるとほぼその周り一体が赤くなっていて大変な被害を受けたんだということがよくわかりますね」

山本恵里伽キャスター
「街全体が火の中にあったということですよね?」

渡邉教授
「このシステムで見ると街の東側も同じように甚大な被害を受けています」

最大4000人のウクライナ兵が地下にいるとされる製鉄所は。

渡邉教授
「攻撃を受けて屋根が崩れ落ちていることが分かる」

そして、製鉄所の周りを囲むように赤くなっています。このデータから何が推測できるのでしょうか?

渡邉教授
「もう(ロシア軍に)包囲されてここに追い詰められて“陸の孤島”のような状態になっているわけです。本当に絶体絶命の状態にあるんだろうなということが、この衛星画像や火災のマップを重ねてみることで見えてくるわけです」

■「ロシア軍は具体的にスタンバイに入っている」衛星写真が示す攻撃準備

一方、衛星写真からは、ロシア軍の侵攻の様子も浮かび上がってきます。

ロシア軍が掌握したウクライナ南部・ヘルソン基地。4月7日に撮影された衛星写真には、軍用車両が集まっていました。ロシア軍を示すZの文字も判別できます。翌8日に撮影された衛星写真には約13キロに及ぶロシア軍の車列が写っています。ウクライナ東部を目指しているとみられます。

ロシア国内でも戦闘準備が進んでいます。ウクライナ北東部ハルキウから約270キロにあるロシアの空軍基地では30機あまりの戦闘機が滑走路に並んでいます。ウクライナ上空で活動するロシア軍の前線基地とみられます。

渡邉教授
「東部に照準を絞るってプーチン大統領自身が言っている状況下で、ウクライナ東部のすぐ近くの基地にこうした軍用機が配備されたり、車列が長く伸びているのを見ると、もう具体的に(東部侵攻の)スタンバイに入っていると捉えるのが自然かなと思います」

■“平和の壁画”も破壊 日本人アーテイストの願い

ウクライナ民話の絵本、「てぶくろ」。おじいさんが落とした手袋の中に、ネズミやカエル、オオカミなど色んな動物が仲良く身を寄せ合う話です。

この絵本をモチーフにして描かれた壁画がマリウポリにあります。この壁画は5年前、日本人アーティストのミヤザキケンスケさんが地元の人と一緒に作り上げました。

ミヤザキケンスケさん
「いろんな国の人、いろんな民族、いろんな地域の人であろうとも、みんなで肩を寄せ合ってシェアして生きていけば平和になるんじゃないかっていうメッセージだったんです」

そして、身を寄せ合った人々のぬくもりで、卵がかえり、カモメが飛び立っていく様子も壁画には描かれていました。

しかし、ロシアの侵攻でマリウポリは破壊されました。あの壁画も、砲撃によって大きな穴が開いていました。

ミヤザキケンスケさん
「ウクライナの方々は共存する気持ちを持ってたと思うんですけど。でもSNSを見ててもだんだん攻撃的な思いになっていきますし、当然ですけど。それを見ているだけで、本当に戦争というのはそういうことなんだなって、強く思いますね」

無力感を感じる一方で、ミヤザキさんは5年前の壁画の続きを描きました。そこには、戦火の中逃げ惑う人々と、その人たちを手袋の中に引き上げようとする人たちの姿が。そしてその手袋を1羽の鳥が大きな翼を広げ、攻撃から守っています。この鳥は、5年前に飛び立った、あのカモメ。

ミヤザキケンスケさん
「希望の象徴のカモメが戻ってきて、手袋で支え合っている人たちを救ってくれるっていうようなメッセージで描きました」

ミヤザキさんは、いつかまたマリウポリで現地の人と一緒に、今度は「復興の象徴」になるような絵を描きたいと願っています。

(13日23:47)

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