少年犯罪の実名報道  匿名が復帰の救いになった男性、娘を殺された遺族…かつての当事者たちは(22/03/31 11:30)

民法の改正により、4月1日から18歳が「成人」となります。もうひとつ、大きく変わるのが「少年法」です。かつて少年事件の当事者となった人たちはどのように受け止めているのか取材しました。

 「少年の健全な育成」を掲げる少年法。

 改正された中身を見てみると、「特定少年」という言葉がありました。

 この春、大きな転換点を迎える少年法について考えます。

改正のポイント『特定少年』 起訴された段階で実名報道が可能に

 今回の改正で、事件を起こした18歳・19歳は「特定少年」として扱われます。

 「18歳と19歳を少年法に残しましたけど、『特定少年』というカテゴリーを設けて、成人犯罪者に近い扱いをするところが増えたということです」(少年法に詳しい南山大学 丸山雅夫 教授)

 すべての少年事件は、いったん家庭裁判所に送られ、少年院送致や保護観察といった「保護処分」などとするか、家裁から検察官に送る「逆送」を経て、刑事裁判を受けさせるかどうかが、決まります。

 これまで、検察官に送られる少年事件は殺人などの重大な犯罪に限られてきました。

 しかし4月以降、「特定少年」の場合は、その対象となる事件が放火や強盗などにも拡大されます。

 そして、検察官が刑事裁判に向けて「起訴」した場合は「報道が解禁される」と丸山雅夫教授は話します。

 これまで少年事件は、将来の社会復帰などを考慮し実名が報道されることはありませんでした。

 しかし4月以降、「特定少年」の場合は起訴された段階で実名での報道が可能となったのです。

 最高検察庁は、すでに全国の高検や地検に対し「犯罪が重大で、地域社会に与える影響も深刻な事案は実名広報を検討すべき」と通知しています。

 「厳罰をどのように捉えるかですが、社会に少なくとも情報が開示されるという意味で、悪い言葉で言えば『さらされる』。その限りで厳罰的な対応になったと」(南山大学 丸山雅夫 教授)

長女の命を奪ったのは17歳の少年

 今回の改正について、かつて少年事件の当事者となった人たちはどのように受け止めているのでしょうか。

 愛知県西尾市に住む、永谷博司さん。

 23年前、当時高校2年生だった長女・英恵さん(当時16歳)を失いました。

 娘をナイフで刺して殺害したのは、17歳の少年。

 かつて英恵さんと同じ中学と高校に通っていて、付きまといなどのストーカー行為を繰り返していました。

 少年の身柄は検察官に送られ、裁判で懲役5年以上10年以下の不定期刑が確定しました。

 「逆送されたので、少年の名前が出てほしかったけど叶わなかった。法律の壁でした」(永谷博司さん)

 娘の命を奪った少年は、刑務所での服役を終えてからわずか3年後、今度は女性を狙った通り魔事件を起こし、傷害などの罪で実刑判決を受けました。

 再び、罪を犯した元少年。

 永谷さんは、娘の事件についても反省していないのではないかと感じています。

 「手紙を送ってくるけど、自分のことが書いてある。『謝罪したい』という気持ちが書いてあるけど、いつでも謝罪には来られるはず。一度も謝罪に来ていないです」(永谷博司さん)

 永谷さんは、実名で報道されることが少年の社会復帰につながるのではないかと話します。

 「名前が公表されて、周りからいろいろな目で見られた方が『もっと自分はこうしなければいけない』という気持ちが湧いてくるのではないか。実名を隠していたら何をやってもいいという考えになってしまうから」

 「世間から見られるように、立ち直るためにはそうなってほしいと思います。名前が出て、どれだけ重たいことをしたかと自覚してほしい。まじめに生きることを考えてほしいと思うだけですけど。反省を促すつもりで実名を公表してもらえればと思います」(永谷博司さん)

非行少年支援のNPO「必要なのは少年院での教育」

 一方、少年法の改正に「反対」の声もあります。

 非行少年たちの社会復帰に取り組む、NPO法人陽和の渋谷幸靖理事長です。

 「少年院は教育をする場所なので、社会に出てから適合できるような教育を受けるんですよ。少年刑務所は罰を与えるところ。罰を与えることで、更生することはないと思っています」(NPO法人陽和 渋谷幸靖 理事長)

 罪を犯した少年に必要なのは、少年院での教育だといいます。

 「一番は自分のやってしまったことに対して、しっかりと向き合い、被害者や親とか迷惑をかけた人に対して、申し訳ないと思えることが更生への第一歩だと思っている。罰を与えるより、子どもたちが大人との信頼関係を芽生えさせて『あの人を裏切っちゃいけない』などの気持ちを芽生えさせる環境が必要だと思います」(NPO法人陽和 渋谷幸靖 理事長)

2度少年院に入った男性「実名報道されたら今の自分はない」

 渋谷さんの活動に支えられた1人が佐々木剛さん(24)。

 16歳の時、傷害事件で、18歳の時は詐欺事件などで逮捕され、合わせて2度、少年院に入りました。

 「『20歳になったら誕生日は社会で迎えようね』と渋谷さんや家族が言ってくれたりして、先生たち大人の優しさも少年院で感じ取れたので、人の優しさとか少年院での体験が今の自分の中では大きいと思います。少年院に入る前は、善悪の判断がまともにできていなかったので」(佐々木剛さん)

 今は愛知県内で建設会社を経営している佐々木さん。

 少年院での教育に加えて、事件当時、名前が報道されなかったことで「今の自分」があると話します。

 「家族とかに影響すると思う。ご近所との付き合いに関しても悪いうわさが広がると思うので、そういう意味でも生きづらくなってしまうと思いますね。今は情報社会で、何かするときでもその人の情報は調べると思うんですよ」

 「自分自身が『俺、1回名前出ているしな』と卑下してしまうことが起きるかなと思います。自分の可能性が、自分のしたことで狭まるのは仕方ないと思うんですけど、僕自身は19歳のときに実名報道がされていたら、今の自分はなかったんじゃないかなと思います」(佐々木剛さん)

専門家「ワンチャンス与えて良いのか、見極めが大事」

 大きな転換点を迎える少年法。

 専門家は、家庭裁判所の判断がより重要になると指摘します。

 「逆送の対象になる犯罪が広がったので、より慎重な判断が求められると思います。ワンチャンス与えて良い少年なのか、もう駄目でしょう、刑罰で責任を取ってくださいという少年なのかの見極めですよね。改正法にのっとって、少年を再社会化しなければいけないわけですから。家庭裁判所の調査官に話を聞くと、『身が引き締まる思いだ』と言っています」(南山大学 丸山雅夫 教授)

(3月30日 15:40~放送 メ~テレ『アップ!』より)

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