ウクライナ侵攻を続けるなか、プーチン大統領はロシア国内のメディア統制を強めています。
今回の軍事行動に関して、ロシア当局が言うところの虚偽情報を広げた場合、最大15年の禁錮刑を与えます。これは、現地の海外メディアも処罰される可能性があります。また、イギリスのBBCなど欧米メディアのウェブサイト閲覧は遮断され、フェイスブックやツイッターの接続も遮断されています。さらに、反戦デモ参加者を大量に拘束していて、小学生も拘束されている状況です。
◆ロシア情勢に詳しい、防衛省防衛研究所の兵頭慎治さん、ロシアの軍事・安全保障政策が専門の小泉悠さんに聞きます。
(Q.ロシア国内でプーチン大統領の行動に賛成している人がどれくらいいると分析していますか)
兵頭慎治さん:「現地に行けず、分からないところがありますが、大半のロシア国民、特に地方や高齢者は新聞・テレビ・ラジオなどを情報源として頼っていると思うので、そういう方の多くはロシアの公式見解を信じていると思います。他方で、若い世代はSNSなどでウクライナで何が起こっているのかを、リアルタイムで、生の映像で見てきたので、現実をある程度、理解していると思います。情報統制が始まってSNS・ネット・国内の報道も規制されて、独立系のメディアも外国のメディアも報道ができなくなってきています。ただ、抜け道もあって、ロシアの規制はそこまで厳しくないので、じわじわとウクライナで何が行われているかという情報は入り、口伝えで広まることもあります。情報統制がありながらも、時間と共に現実の動きはロシア国内で共有されていくのではないかと思っています」
(Q.ロシア政府よりの新聞は『Z』の印が描かれた車が列を組んで行進する様子を伝えました。この映像から読み取れることはなんですか)
小泉悠さん:「『Z』は、ウクライナに侵攻しているロシア軍が車体に描いているマークで、同士討ちを防ぐための識別マークです。2008年のグルジア戦争の時は十字のマークでした。ロシアのメディア空間上では、ウクライナを解放するロシア軍のシンボルマークとして扱われています。2014年にクリミア半島を占拠した時は、特殊部隊が規律正しく振る舞う様子から『礼儀正しい人々』というワードがバズりました。今回は『Z』マークを愛国心、ロシアの戦争を支持するシンボルに使おうとしているんだと思います。ただ、クリミア占拠の時のような熱狂はいまいち感じられません。一部の人は熱狂的に支持していますが、全国民的に盛り上がっているようには見えません。一部には常に『Z』マークに感激してデモ行進をする人がいるんだと思いますが、これがどれくらいロシア社会の中に広がるかはまだ分かりません」
第1次政権からのプーチン大統領支持率を見ると、22年間ずっと、60%以上を上回っていて、最新の今年2月には71%となっています。戦争を仕掛けるたびに支持率をアップさせていて、2008年8月、現在のジョージアと“衝突”した時や、2014年3月、ウクライナ南部のクリミアを併合した時に支持率が上昇しています。
(Q.プーチン大統領の支持率は今後どうなると予測しますか)
兵頭慎治さん:「プーチン大統領は過去に、軍事的行動を取ったことで求心力を高めることができましたが、今回のウクライナ全土に軍事侵攻するというレベルで、支持率を上げることできるかどうかは疑問です。クリミア半島の併合は、もともとロシアの領土だったものを取り戻したんだという点で、ロシア国民の多くの人も納得したと思います。ただ、今回の全土侵攻は何のためにやっているのか、ロシア国民も理解されないし、ロシア兵も含めて兄弟民族であるウクライナ側にもかなりの犠牲者が出ています。かなり行き過ぎた行動に対して、ロシア国民は本当に支持していくのか。情報統制されているので、よく知られていないのかもしれませんが、今回に関してはプーチン大統領の支持率向上にはならないと思います」
(Q.マクドナルド、スターバックスなど、様々な企業がロシアでの販売を停止していますが、ロシア市民に影響はありますか)
兵頭慎治さん:「マクドナルド1号店は、ソ連崩壊後の1990年にオープンしました。その時に私はロシアにいました。あの時のモスクワ市民は、ソ連が崩壊しつつあって、自由なアメリカの文化が入ってきたことに、熱狂的な歓迎ムードがありました。今回、マクドナルドをはじめとしたアメリカ系の企業の撤退は、昔のソ連時代に逆戻りする、統制された社会に戻ってしまうというショックを受けているのではないかと想像します」
小泉悠さん:「マクドナルド、スターバックスがなくなって困ることがないとしても、これまでできていたこと、当たり前にあったことがなくなっていくショックは、特に若い世代にとって大きいと思います。不便かどうかを通り越して、大きなビジネスがロシアからどんどん退避していくのは、経済にダイレクトに影響があります。足元の経済も悪くなるので、普通に考えれば、こういうことを長くは続けられないと思います。ただ、プーチン政権が国民からの評判で戦争をやめようと思うのかどうか。誰もがまさかやらないだろうと思った戦争を始めているので、常識的な判断が働くかどうかという自信は持てません。もしかすると、スターリンの時のような強硬な弾圧を行って反対論を抑え込んでしまうかもしれません。それに対して、西側はどう反応するのか。今回の情勢を見ながら、明るい展望を描けないなと思っています」
(Q.ロシアが仮にウクライナを軍事的に制圧したら、戦争に勝利したと言えるのでしょうか)
兵頭慎治さん:「ウクライナ全土侵攻は失うものが大きいので、外から見る我々からすると勝ち目がないように見えます。しかし、プーチン大統領の頭の中では、勝つために目標を完遂しているようにも見えます。プーチン大統領と、外から見ている我々の思いの間でずいぶんかい離があるような気がします」
小泉悠さん:「戦闘には勝てるでしょうが、戦争に勝てるかは全く別の問題だと思います」
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp
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