ロシアのプーチン大統領は、親ロシア派が支配するウクライナ東部の独立を承認し、ロシア軍の派遣を指示しました。一番の気がかりは今後の展開です。
ウクライナ東部・ドンバス地方。親ロシア派とウクライナ軍がにらみ合う最前線では砲撃音が当たり前になってきました。“この政情不安は、ロシアが意図的につくりだしたものではないか”と指摘される所以は、クリミア併合時と多くの共通点を持つからです。
2014年、ウクライナで発生した動乱。きっかけはロシアに友好的だった政権が崩壊し、親欧米政権が誕生したこと。ロシア系住民が多く住む南部のクリミアや、東部地域を中心に、国民同士が対立しあう政情不安に陥りました。
問題となったのは、その裏側で暗躍していたロシア軍の存在。クリミアで議会などの主要施設を占拠したのは、ロシア軍の装備に身を包んだ所属不明の部隊でした。通称『リトル・グリーンメン』。所属を示す“記章”を外した覆面のロシア兵が送り込まれていました。今回も、東部の前線地域では“所属不明の軍の車列”が確認されています。
8年前との共通点は、ほかにもあります。軍事介入の大義名分です。クリミアで議会などを掌握した親ロシア派が取った行動は“ロシアへのSOS”でした。
ウクライナ領・クリミア自治共和国のアクショーノフ首相(当時):「プーチン大統領にクリミアの平和維持への協力をお願いします」
プーチン大統領に“平和維持”が要請されると、即日、ロシア議会が“軍事介入”を了承しました。今回のケースも、ドンバス地方の親ロシア派がロシアに助けを求め、それを受け入れるという形になっています。
8年前もウクライナとの国境付近で大規模な軍事演習を行っていたという類似点もあります。今回も軍事侵攻の一手を打つ可能性が排除できないのは、ロシアが8年前と同じ状況を作りだしているように見えるからです。ただ、黒海の軍事拠点として重要な意味を持つクリミアに対し、ドンバス地方の戦略的価値は劣るという指摘もあります。
◆今後の展開について、防衛省防衛研究所の兵頭慎治さん、テレビ朝日ワシントン支局・布施哲支局長に聞きます。
(Q.8年前、併合したクリミア半島と違って、今回は軍事的な価値は劣るという東部2つの地域の独立を承認した狙いは、どこにあるのでしょうか)
防衛省防衛研究所・兵頭慎治さん:クリミア半島には、ロシア海軍の基地があり、“軍事的価値”がある地域でした。他方で、今回の東部2地域に関しては、軍事的価値はそれほど高くありません。ただ、このタイミングでアメリカと交渉するうえで、独立承認するというのは、外交上、有効なカードとなっています。ロシアが無目的に東部2州を拡張しているわけではありません。
(Q.クリミアの事例と今回が違うのは、ロシアが米ロ首脳会談を見据えて動いているということですか)
防衛省防衛研究所・兵頭慎治さん:今回、軍事侵攻しない限り、アメリカは米ロ首脳会談に応じると言ったタイミングで、ロシアからすると、「これは軍事侵攻にあたりません」という形で、東部2州を抑えたということです。
(Q.バイデン大統領は、プーチン大統領との会談に臨む考えは変わらないのでしょうか)
ワシントン支局・布施哲支局長:バイデン大統領は、米ロ首脳会談について明確なスタンスを示してはいませんが、いまのワシントンの雰囲気を見ますと、首脳会談は難しいのかなという感じです。議会の一部からは、「ロシアの軍事侵攻を待たずに、すでに用意している強力で大型の経済制裁を直ちに発動すべきだ」という声が出ています。各メディアを見ても、プーチン大統領の一部地域の独立承認を受けて、首脳会談はなくなったのではないかということで、ほぼ一致しています。一方で、24日には、米ロ外相会談が予定されています。アメリカ政府高官は、柔軟姿勢を示していて、まずは外相レベルで腹の探り合いするという展開になりそうです。
(Q.開催について、どう思いますか)
防衛省防衛研究所・兵頭慎治さん:「これは軍事侵攻にあたるので、首脳会談をやらない」とアメリカ側が言い切れるのかどうか。やらざるを得なくなるのではないかと見ています。今回、ロシアが軍事侵攻しないことというのが開催条件になっていますが、アメリカが軍事侵攻と断定した段階で、米ロの交渉の窓が閉まってしまいます。次に予想されるのが、ロシアがキエフを含めた軍事侵攻の構え。いま、アメリカがロシアとの交渉を蹴る決断をできないのではないかと、プーチン大統領は見ていると思います。
(Q.開催される場合、3つの条件が焦点になるといいますが、今後、どうなっていくのでしょうか)
防衛省防衛研究所・兵頭慎治さん:3つの条件のなかでも「ロシア隣接に核搭載の兵器を配備しない」。プーチン大統領にとって交渉を有利に進めやすくなったと思います。「NATO不拡大」についてですが、国が不安定な所は入ることが難しいということもありますので、現実的な可能性を低下させることに成功したと思います。
(Q.アメリカ政府は、交渉にはどのように臨むのでしょうか)
ワシントン支局・布施哲支局長:バイデン大統領は、ウクライナ国内に核兵器を配備する考えはないことを示していますので、そこは話し合いの余地があるとみられています。ウクライナのNATO非加盟についても、一定の落とし所は見つけられるのではないかと思います。アメリカは、表向きは「ウクライナの主権に関わる問題なので、アメリカがどうこう言うことはできない」と言ってきました。バイデン大統領は、予見可能な未来、つまり、20~30年のレンジで見た時に「ウクライナのNATO加盟はないだろう」という言い方もしてきました。ただ、これを法的に保証する、条約に書き込むことも難しいというのがアメリカの立場です。あとはそこをプーチン大統領が、どう評価するかではないでしょうか。
(Q.米ロ首脳会談が行われなかった場合の展開は、どう予想されますか)
防衛省防衛研究所・兵頭慎治さん:交渉が決裂した場合、大規模な軍事侵攻の構えを見せるということだと思います。プーチン大統領の思うようなペースで進んでいない。そのなかから、強硬姿勢を強めないといけない。そういう状況にあると思います。プーチン大統領自身も戦争はしたくない。なんとか外交での落とし所を探りたいといのが本音ではないでしょうか。
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