緊迫化するウクライナ情勢・・・本当に侵攻する?米ロの思惑は?(2022年1月25日)

現実味が増してきているロシアによるウクライナ侵攻。日本政府も警戒態勢に入りました。
岸防衛大臣:「ウクライナ全土の危険情報を『レベル3』に引き上げるとともに、ウクライナ滞在中の邦人の方に商用便等を利用して出国することを強く勧めるとしたことを承知している」
『レベル3』は、2番目に高い、渡航中止勧告です。アメリカとイギリスは、大使館職員の家族に国外への退避勧告を出しました。

首都キエフの様子は、落ち着いているといいます。
キエフ在住36年・寺田宜弘さん:「不安な気持ちはもちろんあると思う。ウクライナの人は、戦争が起きないと信じているので、キエフの街は落ち着いている。精神的な準備はした方がいいと思う。いつ何が起こるかわからないので、水、食べ物の用意するようにと、大使館から連絡あった」

今の状況に、ウクライナの大統領は、こう述べました。
ウクライナ・ゼレンスキー大統領:「すべてコントロール下にあり、パニックになる理由もない。ウクライナ東部の状況は安定している。我々はエスカレートしないよう、平和的解決に全力を尽くしている」

しかし、アメリカのバイデン大統領とヨーロッパ各国、NATO=北大西洋条約機構の責任者が緊急会合を行うなど、関係国はロシア相手に楽観視はしていません。NATO各国は、新たに戦闘機や艦船を東欧に派遣することを明らかにしました。アメリカもNATO支援のため、8500人のアメリカ兵に対し、準備態勢に入るよう指令を出しています。

10万人ともいわれている国境付近に配備中のロシア兵、バルト海に展開する艦隊。わざわざ極東地域から6000キロも移動していく最新の地対空ミサイル。ウクライナの北側に位置するベラルーシにも次々と戦車が運び込まれています。

一方的に併合したクリミア。親ロシア派が一部実効支配している東部。首都キエフまで最短距離が、わずか90キロのベラルーシの3方向からロシア軍は侵攻できる態勢を整えつつあります。

ところが、こうした動きについて、ロシア国内では、こう報じられています。
国営テレビ:「ウクライナには90トンを超える武器がアメリカから到着した。ウクライナはそれ以前にイギリスからも武器を受け取っている。ベラルーシやロシア国境周辺ではウクライナ側からの挑発行為が頻発している」

「ロシア軍がこうなったのは西側諸国のせい」というスタンスを崩していません。
ロシア・ペスコフ報道官:「情勢の緊迫化は情報操作とある行為によって引き起こされたアメリカとNATOによる“ヒステリー”だ」

冷戦後、東欧諸国の加盟が相次ぎ、NATOの勢力は東へと広がり、ロシアと接するまでになりました。ロシアが求めているのは、NATOが拡大する前、1997年の状態に軍の配備を戻すこと。そして、今後もウクライナがNATOに加盟しない保証です。

ロシアの侵攻は、ウクライナがEUとNATOへの加盟を模索したことから2014年に始まりました。ウクライナは、元々はソ連なので、クリミアや東部にはロシア系住民が多く住んでいます。そうした人たちを保護するというのが侵攻の名目でした。親ロシア派の実行支配地域に住む人たちが今、思うことです。
住民:「ウクライナ東部とロシアはまだ一体ではないが、いずれ一緒になるべきだ。こんな暮らしは耐えられない。ロシアからの安定した支援が欲しい」

先週末に行われた米ロ外相会談で、「NATOの不拡大について文書で回答する」とアメリカ側は話しました。ウクライナ情勢は、外交的解決を見ることになるのでしょうか。
ロシア大統領府・ペスコフ報道官:「NATOとの交渉前に文書を受け取らないといけない。今週中に来ることを期待している。アメリカの行動を注視してる」

◆モスクワ支局・長谷川由宇前支局長とワシントン支局・布施哲支局長に聞きます。

(Q.なぜ、今、さらに緊張が高まっているのでしょうか)
モスクワ支局・長谷川由宇前支局長:長年、続く欧米による経済制裁でロシアの経済は停滞しています。こうしたなかでも、日用品や食料品など物価は上昇していて、国民は厳しい生活を強いられています。プーチン大統領の支持率も、かつては90%近くありましたが、現在は60%前半まで低下しています。手詰まりのなかで、プーチン大統領としては、今回、賭けの一手に出たということがいえます。ウクライナへの侵攻をちらつかせることで、アメリカを交渉の場に引きずり出して、ロシアに対する軍事的、経済的な締め付けを少しでも緩めたい。国内向けには、強いロシアをアピールして、国民の支持を得たいという意思があると思います。

また、アメリカが、トランプ政権からバイデン政権へ変わったことで、以前に比べれば、アメリカの出方が予測しやすくなったことも瀬戸際外交を可能にしている要因だという指摘もあります。

(Q.バイデン大統領は、ロシアに足元を見られているのではないでしょうか)
ワシントン支局・布施哲支局長:バイデン大統領は、上院議員時代、長年、ヨーロッパ問題に取り組んできましたし、ウクライナ問題について、スルーせずにしっかり反応してくれる。ロシア側からすると漬け込む隙が出てくるのではないか。そういう分析がワシントンでは出てきています。

もう一つは、11月の中間選挙です。支持率の低迷にあえぐバイデン大統領ですが、中間選挙で敗北して、共和党が議会の多数派を握るのではないかという見方が出てきています。仮にそうなれば、ロシアに対し厳しい共和党が多数派となれば、ロシアに対する甘い政策が期待できなくなります。だから、ロシアからすると、中間選挙までの間、バイデン大統領が一定程度、政治力を行使できる期間、今しかないと判断したという可能性があります。

ワシントンでは、ロシアに対する不信感は非常に根深いものがあります。ロシアの過去のふるまいから、何かしらの軍事行動に出るのではないかと、危機感が強まっています。

(Q.ロシアは本当に侵攻するのでしょうか)
モスクワ支局・長谷川由宇前支局長:先日、ロシア政府の関係者は「本当に戦争を始めるのであれば、第二次世界大戦のように不意打ちが鉄則だ。首脳会談を開いて『侵攻するのか、しないのか』という話をしているなかで、戦争は始まらない」といいます。今回の危機というのも、ロシア流の外交の形だという認識を示していました。だから、キエフを陥落させ、ウクライナ全土を掌握するような大規模な軍事作戦の行う可能性は高くないと思います。

ただ、ロシアは2014年、大方の予想を裏切って、ウクライナに侵攻してクリミア半島を併合したという経緯があります。今週ともいわれているアメリカ側の回答によっては、プーチン大統領のメンツというものがありますので、ロシア軍がウクライナ東部に侵攻する可能性もゼロでは決してないといえます。

(Q.ボールはアメリカにある、問題解決の糸口はどこにあるのか)
ワシントン支局・布施哲支局長:今週、アメリカは、NATOと擦り合わせたうえでロシアに対して書面で回答します。最大の肝は、プーチン大統領が求めているウクライナがNATOに加盟しないことを法的に保証しろというもの。これに対し、アメリカの立場は認められないというものです。アメリカとしては、未来永劫、加盟することはないと保証できないけど、予見可能な近い将来においては、ウクライナのNATO加盟の可能性は低いと伝える方針です。これに対して、プーチン大統領が満足するかどうかが最大の焦点となります。緊張緩和になるのか。話し合いが決裂したとして、何かしらの軍事行動に出るのか。プーチン大統領の政治的決断一つにかかってくるという状況だといえます。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp

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