「逃亡犯罪人引渡法」の問題点について
1 逃亡犯罪人引渡法が著しく人権保障に欠けること
(1)憲法上の問題点
逃亡犯罪人引渡法は、刑事訴訟法が適用されないため、人権保障の手続きが極めて不十分である。例えば、刑訴法上の逮捕、勾留の要件よりもかなり緩く、請求されれば拘禁許可状が出る可能性が高い(憲法31条違反)。また、同法では、拘禁された後、二ヶ月間、裁判所の面前で審査されることがないおそれがある(憲法34条違反)。
裁判所が行う引き渡し決定を行う嫌疑の程度が厳格でなければ、結局のところ、日本の司法による適正な審査を受けられないことになる。さらに、同法では、不服申立ての機会がないため三審制のような手続き保障がない。
(2)自国民を保護する原則に反している
逃亡犯罪人引渡しにおいては、自国民を引き渡さないことが原則であるが、実際には外交上の配慮で容易に引き渡せるような法律になっている。
2 逃亡犯罪人引渡法及び同条約の今後の動向
(1)逃亡犯罪人引渡条約の締結国
現在は、アメリカ及び韓国の二ヶ国のみである。
(2)中国やブラジルとの同条約締結の動き
中国やブラジルとの条約締結も近い将来考えられる。その場合、国内法である逃亡犯罪人引渡法のあり方が大きな問題となる。
3 今後の展開について
(1)山崎敏子さんについて
山崎敏子さんは、逃亡犯罪人引渡法によって2005年10月25日にアメリカ合衆国に引き渡された。しかし、山崎さんは、当初から容疑を一貫して強く否認していたにもかかわらず、十分な手続き保障を受けることができずに引き渡された。アメリカ合衆国では起訴事実の変更がなされており、適切な証拠調べを行えば、引き渡しを求めたアメリカ合衆国当局の訴状に理由がないことは明らかであった。
(2)今後の予定について
①拡大弁護団会議(東京千代田法律事務所にて)
②逃亡犯罪人引渡法の改正にむけた提言
文責 弁護士 大城聡
2010年2月26日