嫁が建築士なんで
なにからなにまで任せて自分はあまり関わらなかったんで
それをどこで手に入れたのかも知らなかった。
引っ越しの荷物もだいぶ片付いたころ
夕飯後居間で娘と遊んでいたら、かすかに白粉みたいな匂いがしてきた。
娘にも嫁にも聞いたけど、鼻が詰まってるとかでわからないらしかった。
居間に入るとずっと白粉の匂いが鼻につくようになり
なんだかイライラしてしまい、落ち着いて座っていられないようになった。
引っ越してから1ヶ月たったくらいだったと思う。
飲み会で夜中に帰宅したら、居間のカーテン越しにぼんやり光が見えた。
だれか電気消してテレビでも見てるんだろうと思い
居間に入るなりただいまと声をかけたが、誰もいないどころか真っ暗だった。
そしてむせるぐらいの白粉の匂いがしていた。
何か見た訳ではないが鳥肌がたった。
嫁を探して寝室に走り、あらかた話したが取り合ってもらえなかった。
その時には白粉の匂いはかすかに鼻につくぐらいになっていた。
相変わらず嫁はなにも気づかないらしく
なにか鼻の病気じゃないかとかストレスじゃないかとか言っていた。
それからまたしばらくたって
相変わらず白粉の匂いは鼻につくものの、日によっては全くしないことも増え
次第にあの日のことも忘れつつあった。
生活も落ち着き、友人を呼んで家のお披露目をすることになった日のこと。
「素敵なアンティークですね」と友人の奥さんに話しかけられた。
居間のテレビ台がわりの桐ダンスだった。
今まであまり意識せず生活していたが
アンティーク好きの嫁はいたるところに古道具を取り入れていた。
「そうなの〜。この桐ダンス素敵でしょー」
嫁はこんなことを言って喜んでいたが、自分はとても喜べなかった。
桐ダンスは着物を入れるもの。
どこの誰かわからない女が着物を出し入れする図が頭に浮かんだ。
あと白粉の匂い…
自分の経験したことが今更ながら怖くなった。
アンティークの家具や小物が怖い。
どんな歴史があるのか誰もわからない。
嫁と話し合い、どうしてもアンティークには抵抗があると告げた。
残念そうだったが、嫁は理解してくれ少しづつ処分してくれている。
もしかしたら恨まれるかもしれない。
長年使った家具は使った人の魂とか家具自体の霊というか
魂魄みたいなものがあるような気がするから。
樟脳(昔の防虫剤)の臭いを嫌って、防虫効果のあるお香入れていた金持ちや粋筋も多かったから
桐ダンスにお香の匂いが染み付いていたのかも