原子力規制委が決定した新規制基準に関して、24日、 原水禁として原子力資料情報室と共同で以下の申し入れを行ないました。原発の再稼働の前提になるものであり、多くの問題を残しています。
2013年 6 月 24 日
原子力規制委員会
原水爆禁止日本国民会議
議 長 川野 浩一
原子力資料情報室
共同代表 伴 英幸
新規制基準に関しての申し入れ
日々の規制行政の遂行に敬意を表します。
6月19日に法制化された新規制基準について申し入れをします。
まず、5月10日まで行われた新規制基準案へのパブリックコメントが充分な審議がなされないまま法制化されたことは問題を残すものです。
どのようにみても原発推進勢力による圧力により、本規制基準の決定、再稼働審査の促進が図られており、このことは原子力規制委員会の存立意義をゆるがすものです。規制基準は、その運用において、検査体制、人員など、総合的な観点からの対応が重要です。更にリスクというものは、想定されない現象が起こるのが確実なのですから、バックフィットの原則を確固たるものにする必要があります。
また、「再稼働」に関わる審査は、安全規制管理官および安全規制調整官らによって行われると思われます。BWR担当の管理官は前原子力安全・保安院原子力発電検査課長、PWR担当の管理官は前原子力安全・保安院原子力安全基盤課長です。調整官らの多くも、原子力安全・保安院で審査や検査に当たってきました。「規制の虜」になってきたかれらが正しく審査を行うことをどのように保証するかが問われます。審査体制について、明らかにされるよう求めます。
また、以前に自身が審査・検査に当たった原発については担当しないといったことは考慮されるのでしょうか。この間規制庁から出されている会合資料でも、危険性が小さいと印象づける記述が散見され、会合における質疑でも「審査の中で確認されている」と以前の審査に何ら疑問をはさまない答弁がなされていることを考えるなら、正しい審査が行われる保証はさらに重要な課題です。
これらの点で、新規制基準は、幾つかの課題で足らざるものであり、このまま運用されることには大きな問題を持つと考えます。
ここに新規制基準について改めて見直しをされるよう求め、申し入れます。
記
1.規制基準の中に立地審査指針をしっかりと位置づけてください
規制基準が提案され7月8日から施行されますが、この中に立地審査指針が入っていないことは納得できません。立地審査指針は「立地条件の適否を判断するため」原則的な立地条件と基本的目標を定め、非居住区域の設定や人口密集地帯を避ける具体的な条件と目安を定めています。この考えの重要性は規制基準でなくなることはありません。その際、福島原発事故の反省の上にたち、非居住区域の拡大が必要になると考えています。
また、この中で扱われている概念のひとつに集団線量がありますが、これも非常に重要な概念で、ICRPやIAEAが集団線量の考えを放棄しようとすることには納得できません。チェルノブイリ原発事故など大規模な放射能放出事故が起きた現実に立つなら、集団線量の考えを適用しないのは、事故が与える心理的影響と原発に対する拒否の住民感情を緩和するための政治的な対応であると断じて過言ではありません。これは許されないことです。被曝の影響を一個人に対するリスク増加率で示しても意味がありませんし、この考えは間違っていると考えます。なぜなら、今日の放射線被曝とこれによる影響は、広島・長崎の厖大なデータや原子力作業従事者などへの追跡調査、これら被曝集団を基に導き出されているものだからです。つまり重要なのは放射能放出によって社会全体が受ける影響です。
ところで規制基準には、立地審査指針を廃止するとも書いていないので、旧指針が存続していると考えられます。とすると用語など矛盾するところが出てきます。例えば、立地審査指針では、重大事故・仮想事故という従来の概念で書かれており、重大事故は「敷地周辺の事象、原子炉の特性、安全防護施設等を考慮し、技術的見地からみて、最悪の場合には起こるかもしれないと考えられる重大な事故」と定義されています。他方、規制基準では重大事故を「発電用原子炉の炉心の著しい損傷、燃料貯蔵設備に貯蔵する燃料体の著しい損傷」と定義し、仮想事故は採用されていません。
2.特定安全施設等の完備に5年間の猶予期間を設けないでください
第二制御室やバックアップ電源などの「特定安全設備」や加圧水型軽水炉のフィルターベントについて、5年間の猶予を与えるとされています。基準自体に自ら穴をあけるような不合理な措置であり、その間の安全を保証できなくなります。この猶予期間の設定は、新規制基準の実効性そのものを阻害するものです。
3.単一故障指針でなく共通要因故障も規制基準の中に位置付けてください
新基準は単一故障の仮定に立って構築されています。ただ、「重要度の特に高い安全機能を有する系統は、その系統を構成する機器の単一故障の仮定に加えて、外部電源が利用できない場合においても、その系統の安全機能が達成できる設計であること」(安全設計審査指針9)と外部電源のみを共通要因としているだけです。外部電源以外の共通要因も考慮しなければ安全の確保ができないと考えます。
4.各原発の敷地内外の断層の再評価と、これに基づく耐震安全性の再審査を進めて下さい
耐震指針の見直し(2006年)に基づき、各原発の耐震バックチェックが進められている最中に東北地方太平洋沖地震(2011年)が起きました。女川原発、福島第一、第二原発では最大地震動として評価された基準地震動(Ss)を部分的ではあるが超える結果となりました。評価が過小だったと言わざるを得ません。見直した結果がそれですから、各原発において再度見直す必要があります。
2008年3月以降、各地の原発の耐震安全性のバックチェックの審議過程では、電力各社は、活断層の連動を考慮しなかったり、断層を破砕帯として動かないことにしてきました。原子力安全・保安院もこれを追認してきました。しかし、福島原発事故を受けた今、新たな規制基準・ガイドラインにしたがいながら、ただし、震源を特定せずに策定する地震動ではこれまでの議論を考慮してマグニチュード7.3を前提として、各原発の敷地内外の断層の再チェックが必要だと考えます。
5.40年超の運転に道を開くべきではありません
原子力規制委員会では「運転延長を認める条件を厳しくした」と言われています。しかし、そもそも40年を超えて運転を認めるべきではありません。20年の運転延長を認める但し書きは削除するべきです。40年の間には導入した技術は古くなり、安全性の維持も困難になります。機器類を交換するようになってきていますが、交換できない機器の安全性が保証されているわけではありません。制限が原則であり、運転延長はあくまで特別な例外であったはずなのに、例外を通常の手続きとすることは許されません。
6. 核セキュリティには慎重かつ適切な対応が求められます
原発、研究用原子炉等に加えて、ウラン濃縮工場、再処理工場等を有することから、慎重な管理が求められます。他方で、核セキュリティを理由とした情報の非公開がすすみ、事故対策・防災対策の障害となっています。また、自衛隊による警備構想や、雇用者の個人情報調査など人権を侵害することは、核セキュリティのためであっても容認できません。
7.火災対策は初期消火に限定すべきではありません
初期消火のみが事業者の責任で、あとは消防に任すというようなことでは、とても現実を見ているとは思えません。火災発生時には直ちに消防に通報し、自衛消防隊が初期消火に当たるとともに、消防の到着後も消火の確認まで積極的に役割を果たすようにするべきです。
8.規制基準は、災害対策の確立を包摂して確立されるべきです
原子力災害対策指針は、福島第一原発事故の究明による新たな検討、知見、また国民からの意見を勘案して、防災対策の実効性を高めていくことが重要です。この原子力災害対策指針の示唆を受けて、当該施設自治体における「地域防災計画・原子力災害対策」および「マニュアル」等が改定されています。この点で以下の課題について求めます。
1)原子力規制基準は、原子力災害対策と一対をなすものであり、当該施設の再稼働、運用の是非にあたり、原子力災害対策指針および当該施設自治体および周辺自治体の地域防災計画・原子力災害対策が確立されることを前提的条件とすること。
これら災害対策は、単に計画の策定にとどまらず、防災対策がトータルとして実態上確立されていることを条件とすること。
2)原子力災害対策指針は、新たな検討、知見、また国民からの意見を勘案して、随時、この機能を高める立場で改定すること。
3)「原子力災害は原子力事業者の事業に由来し、事業者が一義的な責任を負う」としていますが、国の主体的な責任についても明記するよう改められること。
4)原子力災害対策指針は住民の被曝を最小限に抑えることを至上の目的として避難基準等の策定を行うべきです。避難にはそれなりの時間が要することを考えれば、6月に改定された原子力災害対策指針の防護措置のための初期設定値はなお高すぎます。見直しを求めます。
また、指針に基づいて各自治体が策定する防災計画に関しても責任を持って指導し、実効性ある災害対策が策定できない地域について、原発の運転を許可しない対応が必要です。
9.高速炉にも非常用炉心冷却装置が必要です
ナトリウム冷却高速炉は従来の考えを踏襲して非常用炉心冷却装置が不要としていますが、想定外の地震によりガードベッセルが壊れない保証はありません。ナトリウム漏えいにガードベッセルの破損が加われば、高速炉の特性である核暴走爆発事故あるいは炉心溶融事故(この場合、再臨界による爆発事故も考えられる)に進展する恐れが高く、そうなれば、プルトニウムを大量に含む燃料だけに、どちらのケースも原発の過酷事故をはるかに越える災害が避けられません。非常用炉心冷却装置が確実に過酷事故を回避できる保証はありませんが、不可欠の装置と考えます。
また、事故によって放射性物質のみならず、ナトリウムが大量に大気中に放出され、水蒸気などと化学反応を起こせば、人体に有害な水酸化ナトリウムを生じます。ナトリウム冷却型高速炉の特性に応じた過酷事故対策が求められます。
10.現在検討中の「核燃料施設等の新規制基準」について
現在策定中の「核燃料施設等の新規制基準」についても、いくつかの点を指摘しておきたいと思います。
「新基準策定に当たって留意すべき施設の特徴」にあるように、「異常事象の進展が比較的緩やか」なケースが多いとはいえ、臨界事故や爆発事故もありえます。大きな事故が起こるたびに「想定外」が問題となることを考えれば、特徴としては例外とされている点をこそ重視するべきです。
また、「多種多様な事象進展シナリオ」と「長期間の安全性について考慮が必要」とする特徴を十二分に考慮すべきです。後者については、廃棄物埋設施設だけでなく、使用済み燃料貯蔵施設や廃棄物管理施設についても考慮が必要です。
上述の特徴からシビアアクシデント対策では恒設設備よりも可搬型設備で行うことが有効と考えられていることは、大筋としてはそうであるとしても、どのような可搬型設備をどのように配置するかによります。また、恒設設備が望ましいところもあると思われます。安易に可搬型でよしとするべきではありません。
同じく「特定安全施設」が不要と考えられていることも、発電用原子炉と同じものは求められていないにせよ、「緊急時の対策に必要な対策が講じられる設計」とあるだけでは、およそ信頼性に欠けると思います。
再処理施設の高レベル濃縮廃液について、電源喪失により冷却機能が失われても放射性物質の放出までには時間的余裕があると考えられているように見受けられます。爆発事故に対しては一過性であるとし、発生防止に重点を置いた対策が要求されているとされていますが、「一過性」という見方でよいのでしょうか。また、爆発事故は化学プラントとしての事故との捉え方と思われます。ロシア・マヤック工場の貯蔵タンク爆発(1957年9月)のような事故は考慮されなくてよいのでしょうか。
福島第一原発の使用済み燃料キャスク貯蔵施設は、津波により一時水没し、継続使用ができなくなりました。地震等の自然現象、人為事象により建物が破壊され雨ざらしになった場合も、同様の事態となりえます。貯蔵中のキャスクの搬出が求められても、搬出先が容易に見つかる保証はありません。「海水の浸入にもキャスクは機能が維持される」というだけでよいのでしょうか。
また、策定中の規制基準は既設設備を前提とし、貯蔵中のキャスクの補修や詰め替えは考慮されていませんが、それでよいのでしょうか。