就職活動中の学生へのセクハラ防止が、企業に義務づけられる見通しとなりました。カスハラやパワハラに関するニュースが連日報じられ、法律も次々と制定されるなか、なぜ今ごろになって就活生に対するセクハラ防止策が法制化されるのでしょうか。この状況に強い疑問を抱かざるを得ません。なぜもっと早くから具体的な防止策が講じられなかったのか、理解に苦しみます。
就職活動におけるセクハラは深刻な問題です。厚生労働省の調査によれば、インターンシップ中にセクハラを受けた学生の割合は30.1%に達します。つまり就活生の3人に1人弱が、性的な冗談を言われたり、食事やデートにしつこく誘われたりしたことを示していま。OB・OG訪問で知り合った社員やリクルーター、採用面接担当者による被害も発生しています。たとえば、2019年には住友商事の元社員が、OB訪問で知り合った女子大学生を居酒屋で泥酔させてわいせつな行為に及び、準強制性交等の罪で有罪判決を受けました。また、20年にはリクルートの元社員による睡眠薬を使用した事件もあり、就活生が直面するリスクの深刻さが浮き彫りになっています。
(10月21日付 日本経済新聞 電子版より抜粋)
(10月21日付 日本経済新聞 電子版より抜粋)
セクハラの被害を受けた学生は「選考で不利になるかもしれない」という恐怖感を抱えています。このような不安は、彼らの就職活動やキャリアに悪影響を及ぼすだけでなく、精神的にも大きな負担となっています。私自身は就活でセクハラを経験したことがないものの、これほど多くの学生が被害に遭っている現実を知ると、決して他人事ではないと感じます。
厚労省が進めている法改正では企業に面談ルールの策定や相談窓口の設置を義務付けており、重要な取り組みといえます。しかし、すべてを企業に任せているだけでは、十分な効果を期待できません。法的な強制力がなければ、会社が真剣にセクハラ防止に取り組むことは難しいからです。
加えて、仮に相談窓口が設置されたとしても、学生が安心して利用できる環境が整っているのかは別の問題です。先述のように、選考で不利になるのではという不安や、相談しても状況が改善しないのではという無力感があるため、学生は相談しづらい状況に置かれていると言えます。また「相談したことでセクハラが解決した」という体験談に触れる機会が少ないことも一因でしょう。今後、法改正が進む中で、企業が実効性のある制度を導入し、学生が安心して相談できる場が整備されることを願います。
参考記事:
21日付 日本経済新聞「就活生へのセクハラ、企業に防止義務 面談ルールを策定」
22日付 日本経済新聞「就活生へのセクハラ、企業に防止義務 面談ルール策定へ法改正」