海上自衛隊再編成と中国の反応 ――八ヶ岳山麓から(485)――
- 2024年 9月 14日
- 評論・紹介・意見
- 「リベラル21」中国海上自衛隊再編成阿部治平
海自改編
防衛省は8月30日、過去最大の8兆5389億円に及ぶ2025年度防衛予算の概算要求と、これに合わせた海上自衛隊改編計画を発表した。防衛省の概算要求資料などからすると、52隻の護衛艦を運用する4つの「護衛艦隊」と機雷の除去などを行う「掃海隊群」を廃止し、水上艦艇部隊を集約する「水上艦隊」(仮称)を新編する。
現在、4つの護衛隊群はそれぞれヘリコプター空母(DDH)1隻、汎用護衛艦(DD)5隻、イージス艦(DDG)2隻の計8隻で構成されている。これが今回の改編計画では3つの水上戦群に統合される。改編完了時期は2025年つまり来年度末である。護衛艦隊方式が60年も続いてきたから防衛関係者の中には衝撃を受けた人もいるし、改編が日本の海上防衛の弱体化を懸念する専門家もいる。
この海自再編計画は、大掛かりなものにもかかわらず、いままであまり議論されていない。防衛省の予算要求資料でも終りのほうに(目立たないように?)記載されているし、なによりも、自民党と立憲民主党の党首選挙の影に隠れて、大手のメディアもあまり大きく報道してこなかった。
海上自衛隊の改編概要図
改編計画では、第1、2、3水上戦群(仮称)は3正面のオペレーションで対応する。水陸両用戦機雷戦群はいままでの掃海隊群を集約するとともに、輸送艦をここに集めて機雷戦や水陸両用戦を支援していく。 警戒監視のための艦船は哨戒防備群に集約する。こうすることで、第1、2,3水上戦群は日々訓練に集中でき、長期的にもオペレーションにしっかりと対応していけるようになるという。
今回の海自の改編は、2022年12月に策定された防衛力整備計画(2023年度~2027年度)で「今後導入する哨戒艦と護衛艦や掃海艦艇を一元的に練度管理し運用するため、既存の護衛隊群や掃海隊群を改編し水上艦艇部隊とする」としたことを受けたものである。(以上は、https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/など)
中国の反応
海自改編に対する中国の反応は10日後に現れた。人民日報国際版「環球時報」は、「攻守を転じた日本海上自衛隊を警戒せよ」と題する論評を掲げた(2024・09・09)。筆者は張軍社氏。環球時報紙上では、軍事問題専門家とだけ記してあるが、海軍司令部参謀・中国駐アメリカ大使館駐在副武官を歴任した中国海軍の上級将校、文字通りの海軍専門家である。
張軍社氏の評価は、まず「今回の組織改編は、日本の防衛政策における大きな転換点であり、より積極的な海上防衛体制を構築しようとする意図が明らかである。特に、中国の海洋進出や朝鮮のミサイル発射など、地域の安全保障環境が厳しさを増す中で、海上自衛隊の役割がますます重要になると考えられる」というものである。
3つの「水上戦群」の設置は、「3方面の戦線に柔軟に対応する」という作戦要求に応えるためだ」という防衛省の主張に対して、張氏は、「ある意味、海上自衛隊主力部隊の地域『専守防衛』の性格がさらに弱まり、攻撃的な海上打撃力を構築しようとしていることは明らかだ」という。
つまり、海自改編は、「平時には周辺諸国の海域で軍事的存在感を強化し、地域の安全保障問題に介入する力量を高め、戦時には3つの方向で敵と交戦し、さらには『先制攻撃』や『上陸作戦』を仕掛けて他国の領土を再び占領することも可能になる」という考えである。
張氏は、これをかつての「連合艦隊」を連想させるものととらえている。「連合艦隊は、20世紀前半の日本帝国海軍が遠洋で侵略作戦を実行するための戦略的な戦役軍団であり、日本が東アジア諸国を侵略する際の『急先鋒』でもあった」と。
また「日本は、一見些細な変化を積み重ね、内実は水面下で着実に動き、少しずつ『平和憲法』の制約から抜け出し、アジア太平洋での軍事的プレゼンスを高め、世界政治・軍事大国としての地位を求め、(「日本右翼がいう)国家正常化」を実現し、国際安全保障問題への影響力を高めようとしている」という。
そして、おわりに「過去の歴史を踏まえると、アジアの隣国や国際社会は、日本の軍事安全保障に関する動向に警戒心を抱くべきだと考える」と呼びかけている。
連合艦隊?
張氏は、このたびの海自改編が中国海軍の南シナ海、西太平洋海域への進出、カンボジアなど海外軍事基地の建設に対応したものであることを認めている。一般論のレベルでは、改編によって海自は張氏のいう作戦能力の急速な向上を図っていることに間違いはない。だが、氏が海自改編を「連合艦隊」化とするのは、買い被りである。
彼だけではない、日本国内にも「令和の連合艦隊」と評価する人がいる。だが、このたびの改編は「『先制攻撃』や『上陸作戦』を仕掛けて他国の領土を再び占領することも可能になる」レベルには到底およばない。かつての連合艦隊は、遠洋作戦能力を備えていたが、空母ひとつ(さらには潜水艦など)をとっても、それほどの作戦能力をもつとは思えない。
それどころか、中国海軍が尖閣諸島領海に多数の武装漁船あるいは戦艦数隻を展開したとき、巡視船ではいうまでもなく海上自衛隊でも、独自にこれを排除できるかといえば、まず不可能である。日本政府が歴代アメリカ大統領に尖閣諸島への日米安保条約第5条の適用を求めてきたのはこのためである。
日米指揮系統の一本化
私はこの海自改編計画をみて、7月28日の上川陽子外相・木原稔防衛相と、アメリカのブリンケン国務長官・オースティン国防長官のいわゆる日米外相・防衛相会談(2+2)に関する発表を思い出した。
それは、アメリカ側は在日米軍司令部(横田基地)に新組織「統合軍司令部」を設ける。日本側はこれに対応する「統合作戦司令部」を2024年度末までに東京・市谷に設立する。市谷の司令部は自衛隊の陸海空3部隊を一元的に指揮するもので、240人規模である、というものであった。
以前にも、これが米軍と自衛隊の指揮権の統合、あるいは自衛隊の指揮権の過度の移譲につながる可能性を指摘したが、今次の海自改編も日米両軍指揮系統「合理化」の一環ではないかと疑っている。
おわりに
思いがけなくも、張軍社氏の論評は月並であった。中国軍の立場からすれば、専門家でなくても、だれでも書ける内容である。だが、張氏は意図的にこのレベルにとどめたと私は思う。
もし海自改編を本格的に論じるならば、4つの護衛隊群の3つの水上戦群への衣替えは、具体的に3つの司令部はどこに置かれるか、本格的な空母建設など戦力の増強を目指しているのか、アメリカのインド太平洋軍との作戦行動にどんな変化がうまれるのかについて考察しなければならない。敢えてそこに踏み込まなかったのは、それをやると、中国の情報収集能力をみずから暴露する恐れがあったからではなかろうか。
(2024・09・12)
初出:「リベラル21」2024.09.14より許可を得て転載
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