側近「しかし、しきたりですのでまず毒見をしてから……」
王「分かっておる」
側近「では、毒見を」
毒見役「はいっ!」
毒見役(毒見は命がけの仕事だけど、こうずっとやってると緊張感も薄れてくるな)
毒見役(たまには毒の一つや二つ入ってないと、ホントただの作業だ。入ってても困るけど)
毒見役(魚、サラダ、デザート、スープ……)モグモグ
毒見役(それとワイン……)ゴクッ
毒見役「……」
毒見役「……」
毒見役(うん……味も俺の体もなーんも異常なし。あとは報告するだけだが……)
側近「どうだ?」
毒見役(たまには変わったことをしてみたい……そうだ!)
側近「え!?」
毒見役「ぐぐっ……うぐぐっ……うぐぐぐ……」
毒見役「うげええ……ぐあああああ……か、体がぁ……」
毒見役「く、苦しい……」
側近「な、なんだと!?」
王「毒が入っておったのか!」
毒見役「なーんちゃっ……」
王「いったい誰が……!?」
側近「毒を盛れるとすれば……料理人しかおりません!」
王「すぐ料理人を捕えるのだ!」
側近「ははっ!」
毒見役「えっ?」
兵士A「かしこまりました!」
兵士B「厨房へ急げ! 絶対逃がすな!」
ダダダッ…
ワァァァ… ワァァァ…
毒見役「え……え!?」
兵士B「確保! 確保ォ!」
料理人「わ、私がいったい何をしたというのです!?」
兵士A「黙れ! この暗殺者めが!」
料理人「暗殺者!? 私は何もしていない!」
毒見役(その通りだ……。俺だけがよく知っている。彼は何もやっちゃいない)
兵士B「許さんぞ!」
料理人「なんのことだ……! 私は人を殺す毒など盛っていない!」
兵士A「まだいうか!」
料理人「だ、だって……!」
毒見役(その通りだ……。俺だけがよく知っている。彼は毒なんか盛っちゃいない)
側近「連れていけ」
兵士A「ついてこい」
兵士B「連行する!」
料理人「助けてくれ……助けてくれぇぇぇっ……!!!」ズルズル…
毒見役(やべえ……。どうしよう、どうしよう……)
わろた
毒見役「こ、光栄です……」
側近「さっきは苦しんでたが、もう大丈夫なのか?」
毒見役「は、はい……」
王「さすが毒見役、毒に強い体質なのだな」
毒見役「毒に強いからというか……(全て演技だったからというか……)」
毒見役(今ならまだ冗談だったで済む……! 白状しよう!)
側近「はっ」
側近「これは特別ボーナスだ。ありがたく受け取るがいい」
毒見役「い、いただきます!」
王「この騒ぎで食事を取る気分でもなくなってしまった。今夜はもう寝るとしよう」
側近「承知しました」
毒見役「あ……待って……」
毒見役(行っちゃった……)
毒見役(料理人に冤罪ふっかけた挙げ句、大金まで貰っちゃって……)
侍女「あ、聞きましたよ、毒見役さん!」
毒見役「え?」
侍女「大活躍だったんですってね!」
衛兵「そうそう! 陛下を毒殺の危機から救ってくれたとか!」
騎士「王を命がけで守る……まさに君こそ真の騎士といえるだろう!」
毒見役「ハハ……どうも、ありがとう……」
妻「お帰りなさい。お城でのご活躍、聞いたわよ」
毒見役「え、知ってるの? 伝わるの早いな!」
妻「それはそうよ。国王暗殺未遂事件なんて、大事件だもの」
毒見役(未遂どころか……何も起こってないんだよ)
娘「パパはヒーロー!」
毒見役(ヒーローじゃなく……ヒールなんだよ)
妻「だけど毒を食べて……体は大丈夫なの?」
毒見役「ああ、体に異変はないよ」
毒見役(心は……ひどいことになってるけど)
妻「あら、もう?」
妻「やっぱりどこか具合が悪いんじゃ……」
毒見役「いや、そんなことはない!」
毒見役「おやすみなさーい!」
娘「パパ、おやすみー!」
毒見役「……」
モゾ…
毒見役(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう)
毒見役(俺は取り返しのつかないことを……! なんであんなことしちまったんだ……!)
毒見役「おはようございます……」
薬師「おはよう。昨日はお手柄だったな」
薬師「私は薬を作る役、お前は毒を確認する役。似たような役目につく者として鼻が高いよ」
毒見役「あ、いえ……。ところで、料理人はどうなりました……?」
薬師「未だ黙秘を続けてるよ。自分はやってないってな」
毒見役「そうですか……」
毒見役(そりゃそうだ……やってないんだから。何とかこのまま逃げ切ってくれ……)
毒見役「ご、拷問ですか!?」
薬師「ウチの拷問官の厳しさはハンパじゃないからな」
薬師「犯行はもちろん、毒の入手ルートや動機、なにもかも吐き出すことだろう」
毒見役「……!」
毒見役(最悪だあああ……)
毒見役「俺はこうして生きてるわけですし、軽い罪にならないでしょうか?」
薬師「ならないならない。陛下に毒を盛るなんて重罪だよ。最低でも一生牢屋だろうな」
毒見役(めまいがしてきた……)
墓場まで持ってくミス
こえーわ
毒見役「あ、あの……」
薬師「体調悪そうだな。お前、特別ボーナス貰ったんだろ? ならしばらく休暇を取れ」
毒見役「え?」
薬師「家族連れてバカンスでも行ってさ。パーッと遊んでこいよ」
薬師「そしたらなにもかも忘れられるさ」
毒見役「あ、でも……」
薬師「毒見役は他にもいるし、たまには家族サービスもいいもんだぞ!」
毒見役「は、はい……」
妻「よかったじゃない。命がけの仕事だし、たまにはゆっくりしましょうよ!」
娘「あたし、海いきたーい!」
毒見役「ああ、そうだな」
毒見役(すまない、料理人……)
毒見役(ホントのことを打ち明けたら、俺はオシマイだ……。だから犠牲になってくれ……)
そのせいでひと1人死のうがどうでもいいと割り切りそうだがそのへんどうなんだろ
娘「ママー、砂のお山できたー!」
妻「じゃあ、トンネルを掘りましょうか」
娘「はーい!」
毒見役「……」
妻「いいわよ。ただし、波が出たらすぐ戻るのよ」
娘「はーい!」
バシャバシャ…
毒見役「……」
よしんば助命の理由を問い詰められて引っ込めるとしても
毒見役(なにやってても、料理人の姿がちらつく……)
毒見役(おそらく今頃拷問に耐えられず、やってもいない罪を自白してることだろう)
毒見役(俺は人一人の人生を台無しにしてしまった……)
毒見役(毒見どころか……俺が“毒”そのものじゃないか!)
妻「……あなた」
毒見役「え」
妻「さっきからどうしたの?」
毒見役「な、なんでもないよ」
妻「いいえ、ずっと様子がおかしいわよ」
毒見役「なんでもないってば!」
毒見役「!」
妻「私たちは夫婦でしょ。なんでも話してよ」
妻「あなたはいつ死んでもおかしくない職業。私もそれは覚悟してる」
妻「だからせめて……夫婦の間で隠し事は無しにして欲しいの……」
毒見役「……」
毒見役「分かった……全て話すよ……」
大げさだけど割とよくあることだよな
親の人生を台無しにしたり
「ま?」「え?ふざけてるわけじゃないよね?」みたいなところから入って毒見役が実際に体調崩すなり死ぬなりしないと誰も本気にしないと思う
形骸化してるんだから
毒見役「……」
妻「すぐに……全てを打ち明けましょう」
妻「そうでないと、あなたの中に罪悪感という毒が永久に残ってしまう」
毒見役「そうだな……」
毒見役「俺、行ってくるよ。とりあえず薬師さんのところに!」
薬師「ん?」
毒見役「お願いします! 例の毒盛り事件の再調査をお願いします!」
薬師「なんだなんだいきなり」
毒見役「あの時の料理……おそらくまだ捨ててませんよね?」
毒見役「あれを薬師さんが調査して下さい。そうすればきっと分かるはずです!」
薬師「分かるって何が?」
毒見役「料理人の無罪が!」
薬師「……どういうことだ」
毒見役「全てお話しします! だから料理人を助けて下さい!」
普通は料理人を救うための最短距離を行くと思うが
毒見役にとっては「罪悪感>人の命」だから自分の気が済む順番(より強い罪悪感を抱く親しい人間)から打ち明けていく感じ?
まさか1人では王に本当のことが言えないから付添を頼むわけじゃないと思うが
っていうかこれ要するに「毒が入ってない証拠」で料理人の無罪を証明するだけで
自分がついた嘘は揉み消しそうだな
毒見役「はいっ! 今すぐ料理人を釈放――」
薬師「その必要はない。お前がこの件を気に病む必要もない」
毒見役「なんでですか! 俺のせいで一人の人生が――」
薬師「だって料理人は毒を盛ったんだからな」
毒見役「だからいったでしょう! 料理を調査すれば……」
薬師「おいおい、さすがに肝心の料理を検査せず、犯人を拷問するほどこの国は遅れてないぞ」
毒見役「どういうことです?」
薬師「あの料理はちゃんと私が調べた。そして検出されたんだよ……毒が」
毒見役「……は?」
薬師「そりゃそうだ。あの時盛られてた毒は無味無臭で、しかも人を殺すための毒じゃなかった」
薬師「深層意識に働きかけ、神経を高揚させ、理性を低下させ――分かりやすくいうなら」
薬師「“やっちゃいけないと分かってる、でも心のどこかでやってみたいと思ってる事をやらせる毒”だったんだ」
毒見役「え……?」
薬師「毒に強いはずのお前ですら、毒の効能には逆らえなかったんだ」
薬師「もし、この毒を陛下が大量に摂取していたら、ある意味暗殺される以上に悲惨な事態になってたかもしれん」
薬師「お前は……この国を救ったんだよ」
― 終 ―
そいつも毒が抜けるまで隔離して説明しないと
神スレ乙!
俺も秘密は墓まで持ってこう
よくわからんけど
毒味役が真面目だったら危なかった